キヤノンが「複数のプラスチック片素材」を一括判別する装置発表! 長年の課題「黒色」も計測可能!? 注目高まる「再生プラスチック」 新たな技術とは

キヤノンは2025年6月19日、プラスチックリサイクル市場向けに、異なる種類のプラスチック材質を高精度に一括判別できる卓上型のプラスチック分析装置「TR-A100」を発表しました。

プラスチックリサイクルの品質向上を目指す新技術

 プラスチックリサイクルの現場に革新をもたらす新技術が登場しました。

 キヤノンが開発した「TR-A100」は、複数の異なるプラスチック材質を高精度に一括判別する技術を搭載。

 これまで判別が難しかった黒色プラスチックも識別可能なレーザースキャン方式のラマン分光法を採用し、リサイクル工程における品質向上と効率化に貢献していくといいますが、どのような技術なのでしょうか。

従来はひとつひとつを分析する装置が主流だったという
従来はひとつひとつを分析する装置が主流だったという

 キヤノンは2025年6月19日、プラスチックリサイクル市場向けに、異なる種類のプラスチック材質を高精度に一括判別できる卓上型のプラスチック分析装置「TR-A100」を発表しました。

 この装置は、従来の分析装置では判別が難しかった黒色プラスチックを含む、さまざまな色のプラスチック材質を高精度に識別できることが特徴です。

 TR-A100は、プラスチックの再資源化を推進する市場ニーズに応えるもので、リサイクル事業者や樹脂メーカーが抱える「材質判別の手間」や「黒色プラスチックの判別困難」といった課題を解決する機能を備えています。

 キヤノン株式会社 光学機器事業本部計測機器事業推進センター 所長の萩原裕之氏は、「市場の声を聞きながら、これまでになかったスタイルの商品を開発しました」と説明。同社が昨年発表した大型の選別装置に続く新製品で、より幅広いニーズに対応する狙いがあります。

 近年、プラスチックの再資源化は世界的に重要な政策課題となっています。

 法整備も急速に進んでおり、2021年にはバーゼル法(汚れたプラスチックごみを規制対象に追加)の改正により自国内での廃棄物処理が強化され、2022年にはプラスチック資源循環促進法が施行されました。

 特に自動車業界では、2023年に欧州ELV(End of Life Vehicles)指令が出され、当初は2031年までに自動車に使用されるプラスチックの25%をリサイクル材にすることが求められていましたが、最近の修正案では2029年までに20%に目標が調整されました。

 また、2025年2月には再資源化事業等高度化法も施行され、企業は自社製品に自社のリサイクル材を使用することが推奨されるようになっています。

 こうしたリサイクルに関する市場動向について、キヤノン株式会社 光学機器事業本部計測機器事業推進センター 主幹の石井真史氏には「市場調査によれば、リサイクルプラスチックの市場規模は2030年には2022年比で1.8倍に拡大すると予測されています。さらに法規制が強化される中、この成長率はさらに高まる可能性があります」と説明しています。

色々なプラスチックの素材を一括で判別可能な分析装置が登場した
色々なプラスチックの素材を一括で判別可能な分析装置が登場した

 従来プラスチックのリサイクルフローは、廃棄物の回収から始まり、リサイクル業者による破砕・洗浄・選別、再生樹脂メーカーによる加工、樹脂成形メーカーによる部品製造、最終的に完成品として消費者に届けられるという流れになっています。

 しかし、このプロセスには多くの課題が存在します。リサイクル業者は廃棄物を購入する際に含まれる樹脂の種類がわからず、選別後の純度確認も難しい状況です。

 特に黒色プラスチックの測定は技術的に困難で、多くの場合は判別を諦めるか、時間をかけて1個ずつ測定するしかありませんでした。

「現場では、樹脂を炙ったり割った音を聞いたりして判断するヒューマンスキルに依存している状況もあります。科学的な方法で正確に分析したいというニーズが高まっています」と石井氏は説明します。

 また作業時間の短縮という部分で石井氏は「従来は1個のプラスチックを測定するのに5分程度かかっていましたが、TR-A100では100個のサンプルを約100秒で測定できます。これにより人件費の削減と、黒色プラスチックの測定が可能になることが大きなメリットです。導入コストはかかりますが、長期的には十分な費用対効果があると考えています」と説明。

 また、樹脂メーカーは高品質な樹脂を求めており、材質の簡単な確認方法を必要としています。自動車のバンパーや内装材など、リサイクルが必要な部品の材質特定も課題となっていようです。

 萩原氏によれば 「リサイクル業者だけでなく、再生樹脂メーカーや自動車メーカーなど幅広い業界での活用を見込んでいます。特に自動車業界は欧州ELV指令の影響もあり、大きな市場になると予想しています。また、メーカーの研究所など、多数のサンプルを測定する必要がある場所でも活用されると考えています」と説明しています。

 こうした現状ならび課題があるプラスチックのリサイクル市場ですが、今回のTR-A100は新技術により新たな可能性を示すものとなりそうです。

新たなTR-A100は分析した個々のプラスチックを判別してデータ解析が出せるという
新たなTR-A100は分析した個々のプラスチックを判別してデータ解析が出せるという

 TR-A100は5mm×5mm以上のサンプルサイズに対応し、厚みは10mmまで測定可能。測定精度は99%以上で、100個のサンプルを約100秒で測定できます。主な特長は以下の3つです。

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 ●1. 異なる種類のプラスチック材質を高精度に一括判別

 レーザースキャン方式のラマン分光技術により、従来判別が難しかった黒色プラスチックを含む様々な色のプラスチックを高速に判別できます。

 現在の仕様では、ポリプロピレン(PP)、ABS、PE、PS、PVCなど12種類のプラスチックを識別可能です。

 石井氏は「白色のように反射光が強いものだけでなく、黒色のように反射光が弱いもの、赤色など中間の色も全て分析できる点が革新的です」と話します。

 ●2. 簡単な操作で判別可能な優れた操作性

 測定したいプラスチック片をトレーに並べてセットするだけで、自動でレーザー照射点を決定し、測定を開始します。

 識別結果は画面上に表示され、Excel形式でのレポート出力も可能で、多点計測機能により、樹脂の品質確認も容易になりました。

「操作は非常に簡単で、専門知識がなくても使用できます。400mm×300mmのトレーには最大500個のサンプルを並べることができ、一度に多数のサンプルを効率良く分析できます」と石井氏は説明します。

 ●3. 材質が混合したプラスチックにも対応

 異なる素材が結合したプラスチック片でもも測定点を複数設定することで、それぞれの樹脂の種類を判別できます。
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ラマン分光法のイメージ
ラマン分光法のイメージ

 TR-A100の核となる技術は、ラマン分光法とガルバノスキャナーの組み合わせです。

 ラマン分光法とは、レーザー光を物質に照射した際に発生するラマン散乱光を利用して物質の化学構造情報を得る分析手法のこと。

「ラマン分光法は物質の詳細な特性を知るための優れた手法で、環境分析に広く利用されています」と石井氏は説明します。

 キヤノンはこれにガルバノスキャナー技術を組み合わせることで、X方向とY方向に自由に光を走査し、樹脂に対して1点ずつ光を当てる技術を実現。

 白色のように反射光が強い場合は短時間、黒色のように反射光が弱い場合は長時間照射するなど、適切な測定が可能になっています。

 また、レーザーが樹脂を劣化させない対策も施されており、「レーザーを微小に振動させることで熱を分散させ、プラスチックにダメージを与えない工夫をしています」と石井氏は語ります。

 今後は市場ニーズに応じて、現在対応している12種類のプラスチック以外にも、タルクやガラス繊維などの添加物の判別機能も検討しているといい「ソフトウェアのバージョンアップによって、さらに多くの機能を追加していく予定です」と開発の方向性を示しました。

※ ※ ※

 今後の展望について萩原氏は「世界中のメーカーがこの装置によってトレーサビリティ(追跡可能性)を担保し、プラスチックリサイクルの品質向上に貢献したい」と語ります。

 科学的な分析に基づいた正確なプラスチック識別が可能になることで、リサイクル材の品質向上と効率化が進み、循環型社会の実現に一歩近づくことが期待されます。

【画像】これが画期的なプラスチック分析装置です。(11枚)

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1件のコメント

  1. 記事の名を借りたチョ-チン記事だ。

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